0%

『温泉むすめ』プロデューサー橋本竜が語る、地方活性化プロジェクト新展開と2次元コンテンツの今

先搬过来,想翻译的时候顺带翻两句

音楽やイベント活動を通して地域活性に取り組むクロスメディアプロジェクト『温泉むすめ』が、新しい局面を迎えている。日本全国の温泉地をモチーフにしたキャラクターは120体を突破し、温泉地や地方都市で開催するイベント/啓蒙活動が評価されたことで2019年6月には観光庁の後援が決定。今年に入ってからも、新しく小野川温泉や湯村温泉といった温泉地ともコラボするなど、その規模を拡大中だ。

 10月16日には『温泉むすめ』の楽曲を余すところなく収録したコンプリートアルバムが発売。SPRiNGSの楽曲をまとめた〈SPRiNGS SIDE〉、SPRiNGSのライバルユニット5組の楽曲をまとめた〈UNIT SIDE〉、ソロ曲をまとめた〈SOLO SIDE〉の全3形態、既発曲24曲、CD未収録楽曲10曲、新曲5曲を加えた全39曲のフルボリュームとなっている。

 各温泉地とのコラボや観光庁の公認、これまでの集大成的なコンプリートアルバムの発売と、ひとつのターニングポイントを迎える『温泉むすめ』。同プロジェクトの生みの親/プロデューサーの橋本竜氏に、2019年の活動を振り返りながら『温泉むすめ』の音楽やライブのこだわり、2次元コンテンツビジネスの今を語ってもらった。(編集部)

温泉地の経済効果向上と観光庁の後援


「SPECIAL YUKEMURI FESTA in 箱根(小田原)」の模様

ーーまずは『温泉むすめプロジェクト』全体の2019年の動向について。今年は引き続き各地方の温泉地でのイベントを盛んに行っていますし、小田急ロマンスカーを貸し切った「SPECIAL YUKEMURI FESTA in 箱根(小田原)」といった企業とのコラボレーションも増えて、プロジェクト自体の世間への浸透度がさらに増したように感じます。運営側としての実感はいかがですか。


雲仙温泉イベントの模様

橋本竜(以下、橋本):今年上半期のいちばん大きなトピックは、6月に『温泉むすめプロジェクト』が観光庁さんの後援と公認をいただいたことです。観光庁がこういった民間のプロジェクト全体に対して後援を行うのはこれが初なのですが、今回我々が認めていただいた理由のひとつとして、地方への送客実績が挙げられます。『温泉むすめ』では今まで地方の温泉地を中心に40カ所ほどでイベントを行ってきまして、ありがたいことに総計で1万人以上のファンの方々にお越しいただきました。例えば2月の雲仙温泉、9月の飯坂温泉のイベントでは、各地元の方にも「過去最高の経済効果があった」と評価をいただいています。


草津温泉トークイベントの模様

 また、草津温泉とは、群馬県を盛り上げるための「群馬デスティネーションキャンペーン」の一環として、今年の2月から6月にかけて計4回のイベントを実施しました。そちらにも毎回数百人単位のお客さまにお越しいただいて、来場者アンケートによるとその7割のお客さまが現地に宿泊もされたそうなんです。温泉地のいちばんの望みは、やはりお客さまに宿泊していただくこと。我々もこれまで様々な施策やトライ&エラーを繰り返してきた結果、ようやくファンの方に温泉地を楽しんでもらえる形が整ってきたように感じています。


『温泉むすめ』キャラ一覧

ーーキャラクター数も順調に増えて、10月1日には120番目の温泉むすめ・小野川小町(CV:村上奈津実)が公開されました。

橋本:これまでは弊社で各温泉地の特徴を調べて独自にキャラクターを制作していたのですが、今は各温泉地の方から「キャラクターを作ってほしい」というご依頼をいただいて、地域の方々と話し合いながら、各地の課題に合わせて一緒にキャラクター作りを行うケースが増えました。その一例となるのが、今回の発表に合わせて山形県米沢市の観光大使に就任した温泉むすめ・小野川小町です。こちらでは読売新聞社さんが運営する「地方創生」をテーマにしたクラウドファンディングサイト「idea market」を活用しまして、小野川温泉を盛り上げるためのクラウドファンディングをサポートしています。


小野川小町

 また、そういったケースのいちばんの成功例が、今年9月に湯村温泉(新温泉町)観光大使と特別観光大使に就任した温泉むすめ・湯村千代(CV:高木美佑)です。彼女の場合は、キャラクターの設計の段階から、名前・性格の部分にいたるまで、現地の皆さんとお話をしながらキャラクター付けを行うことで、より地域の方々に愛されるキャラクター作りが実現できました。『温泉むすめ』たちは各温泉地に宿る神様という設定なのですが、各温泉地に必ず建てられている温泉神社で祭られている神様ではないですけど、地域の皆さんとキャラクターの創造からご一緒することで、今はゆるキャラ以上に地域に土着化したキャラクター作りができているように感じます。


湯村温泉(新温泉町)観光大使と特別観光大使に就任した温泉むすめ・湯村千代(CV:高木美佑)

ーーキャラクターと温泉地のひも付けがより強化されているんですね。

橋本:ただ、今後のキャラクターの増加ペースは緩やかになると思います。以前は、今年9月でサービスが終了したアプリゲーム『温泉むすめ ゆのはなこれくしょん』に興味を持っていただくために、あくまでもゲームのキャラクターを先行で見せる意味合いで、次々と新キャラクターを公開していたんです。ですが、状況の変化により、ゲームのために新キャラクターを作り出すことを止めまして、そこからは地域の方々と話し合いながらキャラクター作りを行うことが多くなりました。今も全国各地の温泉地の方から毎日のようにご相談の連絡をいただいていますが、キャラクター作りは魂を込めてひとりひとり大切に行わなくてはならないので、順次お話をさせていただいている状態です。

ーーこれまでの実績があるからこそ、より多くの温泉地からの理解も得られるようになったわけですね。

橋本:『温泉むすめ』のキャラクターはライセンスフリーかつロイヤリティーフリーのため、温泉地の皆様には無償で使っていただけますので、各温泉地で新しいツールとして活用が進んでいる状況です。実際に今はキャラクターが存在する温泉地の半分に当たる60カ所の温泉地とお話をしていて、そのうち40カ所では等身大パネルが設置されています。最近は温泉好きの方から「どこに行っても温泉むすめがいる」と言われるのですが(笑)、立ち上げから2年半でここまでこれるとは正直思っていませんでした。それだけ地域では観光を盛り上げるためのツールが求められていたようです。もちろん我々の送客力はまだまだではありますが、20〜30代の若い男性の方が足を運ぶことで、温泉地の皆様のモチベ—ションアップに繋がっていけばと思っています。


飯坂真尋


飯坂温泉特別観光大使に就任した飯坂真尋(CV:吉岡茉祐)


飯坂温泉イベントの模様

ーーなかでも福島の飯坂温泉の取り組みについては、『温泉むすめ』のオフィシャルサイトでも「飯坂温泉観光協会からの手紙「飯坂真尋ちゃんが射してくれた光」」というトピックで紹介されていましたが、「温泉むすめ」を通じた地域の活性化の事例として素晴らしいものに感じました。

橋本:ありがとうございます。弊社では各温泉地さまからお手紙という形で生の声をもらうようにしていまして、過去にも有馬温泉、雲仙温泉からのお手紙を紹介してきました。『温泉むすめ』はいままでのIPとは違って、設計やコンセプトが特殊ですので他の温泉地に実例を知っていただくだけでなく、ファンの方も実際に現地でどのように受け入れられていったのかを気にされているようなんです。そこでキャラクターとコンテンツが地域にどれだけ愛されているかを見ていただきたいと思い、お手紙の公開という形を行っています。


飯坂真尋パネル

 飯坂温泉ではすでに飯坂真尋(CV:吉岡茉祐)のパネルが20体以上飾られていて、地元の新聞やテレビにもよく紹介していただいてますし、現地の誰に聞いても「真尋ちゃん」とわかるぐらい、地域のキャラクターとして受け入れていただいています。9月には現地で福島市長も参加した飯坂温泉特別観光大使の就任イベントを行ったのですが、イベント参加前に飯坂温泉さんのアイデアで「真尋タイムス」という形でお手紙の内容を印刷してファンの方に配っていただいたんです。そこで飯坂温泉と『温泉むすめ』がコラボした過程を知っていただくことで、応援しようという気持ちがより強くなればと思いました。


南紀勝浦温泉の温泉大使に就任した南紀勝浦 樹紀(CV:吉岡麻耶)

ーー過程を知ることでよりキャラクターや地域にも愛着が湧く、と。

橋本:ファン心理にもいろいろあると思いますが、我々は「声優を推す」「キャラクターを推す」に加えて「地域を推す」という第3のファン心理を皆さんに抱いていただきたいんです。就任イベントは地域の皆さんの好意があって辿り着いたストーリーですし、キャラクターと地域が持つそれぞれのストーリーをクロスさせて楽しんでいただくきっかけを与えるのも、我々の役割ですから。


大分トリニータマスコットキャラクターのニータンと温泉むすめ 九州選抜

ーーほかにも、7月には「温泉地検定」の公式応援キャラクターに温泉むすめが就任、9月には温泉と食とウォーキングを通じた新たな体験を推進する「ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」への参加も発表されました。

橋本:「温泉地検定」に関しては、実は自分が立ち上げた検定事業でして、社団法人の代表理事も自分が務めています。「ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構」は様々な企業が参画している社団法人でして、我々と同じく地域創生に力を入れていらっしゃるんですね。そこでまさに「温泉地検定」的なことを行おうとされていたらしいのですが、先に自分が立ち上げていたので、であれば提携しようということになりました。「ガストロノミーツーリズム」は「食とウォーキング」、こちらは「コンテンツ」ということでアプローチは全然違いますが、共同でイベントを開催できればより多彩なツールを提供できると思うんです。我々はスタッフが4人のベンチャー企業ですが、向こうは資金力も人もネットワークもある大企業が母体ですから。

ーーたった4人で『温泉むすめ』の全事業を管理・運営されているのもすごいことですね。

橋本:我々は製作委員会のような形ではなく、1社提供ですべての権利を持つこと、それによりいろんなオファーをいただいたときに即座に対応できる座組みを作るというのが、立ち上げ時から考えていた今の時代に相応しいビジネスモデルでもあります。例えば製作委員会が組まれている場合、缶バッジ一個作るにしても、関係各社に確認するために2〜3週間ぐらいの時間が必要になります。ですが、それだけ時間がかかってしまうと、せっかく地域の方が「温泉むすめを使って何かをやろう!」と思っても、打ち返しの速度が遅れたことにより、現地のモチベ—ションが下がってしまいます。ですから我々は地域の方にどんどん挑戦してもらえるような体制を整えています。面白いと思ったらまずはやってみましょう、と。そうすることで経験も積めますし、地域の方のキャラクターを使ってみたいという気持ちを何よりも大切にしたいんです。


コラボグッズ・有馬温泉カレー

新曲「湯夢色バトン」は『温泉むすめ』の今を体現する曲


『温泉むすめ 4th LIVE“ NOW ON☆SENSATION!! ” 〜聖夜にワッチョイナ Vol.2〜』の模様

ーーここからは今回リリースされる『温泉むすめコンプリートアルバム』について聞かせてください。「SPRiNGS SIDE」「UNIT SIDE」「SOLO SIDE」の3タイトルに分けてリリースされる本作には、『温泉むすめ』がこれまでに発表してきた全楽曲を収録。CD未収録楽曲10曲、新曲5曲を含む、まさにコンプリートな作品になっています。このタイミングで本作のリリースに踏み切った理由は?

橋本:まず最初にお伝えしておきたいのが、今回コンプリートアルバムを出すことと、9月いっぱいでアプリゲームがクローズしたタイミングが一致してしまったことで、「温泉むすめのプロジェクト自体が終了するのではないか?」と推測されている方もいらっしゃるのですが、今回のアルバムは改めてプロジェクトを盛り上げるためのリリースになります。

 コンプリートアルバムに関しては、自社で立ち上げたJewelry Box Recordsを改名した<OMUSUBIレコード>というレーベルからリリースするのですが、過去のCD作品を様々なレーベルからリリースしてきた関係上、そもそも店頭でCDが購入しにくい状況なんです。そんななか、例えばSPRiNGSの「青春サイダー」がアニクラで流れたり、音楽ゲームの『CHUNITHM』や『オンゲキ』とのコラボレーションで楽曲を使っていただいたりするのですが、外部で流れる機会が多いが故に楽曲だけが独り歩きしてしまって、そもそも『温泉むすめ』の楽曲だということを知らない方が多いんですね。

ーーなるほど。

橋本:それらの楽曲と『温泉むすめ』をリンクさせること、そして現状は集めることが大変なCDや音源を、コンプリートアルバムという形でレーベルの垣根を越えて一つの作品にまとめてリリースすることで、『温泉むすめ』を知ってもらうためのある種の入門キットになればと考えて本作を企画しました。また、今回はCD3枚をセットにした『温泉むすめコンプリートBOX』もリリースしますが、そちらには2018年12月に開催したライブイベント『温泉むすめ 4th LIVE “NOW ON☆SENSATION!!”〜聖夜にワッチョイナ Vol.2〜』のBlu-rayを特典としてつけています。『温泉むすめ』は『SUMMER SONIC 2018』にも出演するぐらいクオリティの高いライブを開催していることを多くの方に知っていただければと思いまして。


『温泉むすめ 4th LIVE“ NOW ON☆SENSATION!! ” 〜聖夜にワッチョイナ Vol.2〜』の模様

ーーとにかく『温泉むすめ』に少しでも興味を持った方がすぐ音源を入手できるような状態を作りたかったと。

橋本:それが一番の理由です。全部で39曲も収録しているので、これを聴けば『温泉むすめ』の楽曲がどういったものかわかりますし、SPRiNGSやAKATSUKIといったユニットごとのバリエーションや個性もバラバラですので、ユニット単位でも興味を持ってもらえるきっかけを作りたかったんです。

ーー『温泉むすめ』のメインユニット・SPRiNGSの楽曲をまとめた『温泉むすめコンプリートアルバム Vol.1〈SPRiNGS SIDE〉』には、待望の新曲「湯夢色バトン」が収録されています。

橋本:この曲は先日試聴動画をアップしたのですが、ファンの方の中には「これはバトンを渡して終わるという意味じゃないか?」と深読みされている方もいまして(笑)。「湯夢色バトン」は「温泉むすめ」の今を体現する曲を作りたくて制作しました。歌詞にも表現されていますが、SPRiNGSはバトンを受け取りもするし渡しもする、いわゆるハブの役割を担っているんですね。SPRiNGSは元々各地域の温泉地を代表する温泉むすめが集まったユニットで、彼女たち9人の活躍が礎となって「温泉むすめ」の2年半があるんです。そんなSPRiNGSが引き続き中心となって、彼女たちの周りの地域にもバトンリレーをするように『温泉むすめ』が波及していけばという願いを込めました。

 作編曲の佐伯高志さん、作詞の畑亜貴さんには「バトン」をテーマにすること、そして今後の広がりを予見させるような、アイドルの王道を意識した楽曲をお願いしました。SPRiNGSとしては2年ぶりの新曲になりますし、SPRiNGSの9人が今この曲を歌うことの必然性とストーリーを持たせた曲にしたかったので、『温泉むすめ』がこれからも周りを巻き込みながら発展していくことを伝えたかったんです。

*【試聴動画】湯夢色(ゆめいろ)バトン「SPRiNGS」【温泉むすめ】*

ーー佐伯・畑タッグと言えば『ラブライブ!』シリーズで多くの楽曲を手がけてきたことでも知られていますが。

橋本:畑さんには以前に大手町梨稟(CV:楠木ともり)のデビューシングル「Passionate Journey」を含めた2曲を作詞していただきましたし、今回の『温泉むすめコンプリートアルバム Vol.3 〈SOLO SIDE〉』に収録されている有馬楓花(CV:桑原由気)の新曲 「あ・り・ま・す・か?」も書いていただいたのですが、実は畑さんは有馬温泉が大好きでよく通われていまして、元々は有馬温泉の方からご紹介いただいてご縁ができたんです。畑さんは以前から有馬温泉の曲を書きたいというお話をされていたみたいで、『温泉むすめ』の総選挙で有馬楓花が選ばれて曲を作ることが決まったときに、その曲の歌詞を書いていただくお話が進みまして、そのご縁で今回の「湯夢色バトン」も書いていただきました。作曲の佐伯さんに関しては、自分がアイドルど真ん中の楽曲を作っていただける作家さんを探すために様々なコンテンツの楽曲を聴きまくったなか、個人的にすごくキラキラした青春ソングを作れる方だと感じたんです。なのでコンペではなく直接佐伯さんにお願いをしました。

ーーおっしゃる通り近年のアイドルソングの王道を行くような、華やかかつエモーショナルな曲に仕上がっていますね。

橋本:ありがとうございます! 今回、歌割りも気にして作っていただきまして、草津結衣奈役の高田憂希さんのソロから始まり、そこから声がだんだん重なって最終的に合唱になる構成も、現状のSPRiNGSの絆を含めて表現していただきました。それと下呂美月役の佐伯伊織さんは、SPRiNGSとしてレコーディングを行うのは今回が初だったんです(※佐伯は2018年6月に芸能活動から引退した遠藤ゆりかに代わって下呂美月役を引き継いだ)。以前にソロで「咲かせよ 沸かせよ バンバンBURN!」という楽曲をひとり4役で歌っていただいて、ファンの方からも「すごい人がきた!」と評判だったのですが(笑)、やはりSPRiNGSには途中から輪に入っていくこともあって、自分の声が混ざることによってどうなるかを心配されていたと思うんです。今回の楽曲は彼女のそういった心情も聴きどころになっていると思います。

各ユニットが持つ独自のストーリーを伝えたい


『温泉むすめ AKATSUKI 1st Live 〜艶〜』

ーーそしてSPRiNGSのライバルユニットたちの楽曲をまとめた『温泉むすめコンプリートアルバム Vol.2〈UNIT SIDE〉』には、3曲の新曲を収録。まずAKATSUKIの新曲「暁のDiva」は、今年2月に開催されたユニットの単独ライブ『温泉むすめ AKATSUKI 1st Live 〜艶〜』で披露されたナンバーになります。

橋本:AKATSUKIのこれまでの楽曲は鬼怒川日向役の富田美憂さんがセンターだったのですが、この曲では別府環綺役の岩橋由佳さんがセンターを務めています。というのも、ライブではAKATSUKIの結成秘話を20分ぐらいの朗読ドラマで披露したのですが、AKATSUKIのメンバーは全部で3,000人程いるとされている温泉むすめの世界でもトップレベルの3人が集まっているので、それぞれが尖っていてチームワークやまとまりに欠けるところがあったんです。それがあることがきっかけでユニット結成に至るのですが、そこで他のメンバー二人に誘われる形でいちばん最後に立ち上がったのが別府なんです。そのストーリーを体現したのが「暁のDiva」でして、この楽曲でAKATSUKIは誰がセンターを務めても遜色のないユニットであることを表現しているんです。


『Adhara 1st Live 〜SEIRIOS〜』

ーー楽曲ごとにバックボーンとなるストーリーがしっかりと用意されているのですね。Adharaの新曲「星に集いし乙女の物語-プロローグ-」「覚醒 sinfonia」も、今年5月に開催されたワンマンライブ『Adhara 1st Live 〜SEIRIOS〜』で初披露されましたが、こちらはどのような背景があるのですか?

橋本:ユニットの世界観を知ってもらえるようなものにしたくて、Adharaの単独ライブに合わせて用意した新曲になります。Adharaはシンフォニックメタルな曲調が音楽的な特徴でして、そのゴシックな世界観を表現したくて、ライブでは頭と終わりにクラシックの楽曲を用いたり、影絵による物語の上演を行ったりしたんですね。構成的にもドラマパートとライブを交互に行いまして、新曲もそのドラマのメイン役である「シリウス」という一等星にまつわるお話に合わせて作っていただきました。

 そこで描いた星の物語は、Adharaというユニットのコンセプトに関わっていまして、彼女たちの演じる役柄が、なぜAdharaがAdharaなのかという結成の理由とクロスオーバーするような、劇中劇という形になっていたんです。なぜAdharaのみんなは黒川姫楽(CV:田中美海)のもとに集まってきたのか、そして黒川姫楽はなぜ想いを持ってAdharaのセンターを務めているのか。その星の物語を盛り上げるための曲が今回の2曲になります。

ーーライブの構成もしっかりと計算されているのですね。

橋本:AKATSUKIのライブのときには冒頭で日本舞踊のプロの方に踊っていただきましたし、『温泉むすめ』は不思議なライブを行うとよく言われるのですが、やはりファンの方が楽しんでもらえるようなものにしたいんですね。『温泉むすめ』はこれだけのバックボーンがありながらも、ストーリーに触れられる機会が少ないのですが、ライブではドラマを含めて新しい情報を得られるので、それをライブに足を運んでいただける理由にしていただければと考えています。

*【試聴動画】湯夢色(ゆめいろ)バトン「SPRiNGS」【温泉むすめ】*

ーーまた、Adharaの新曲は2曲ともULTRA-PRISMのお二人が楽曲提供されていることも注目ポイントだと思います。どちらも幻想的なゴシックロックになっていますが、意外な抜擢でした。

橋本:ULTRA-PRISMさんは、それこそ最近は畑さんと一緒に活動されているので、そのご縁もあってご紹介いただきました。私も『侵略!イカ娘』(テレビ東京ほか)の大ファンだったので、あのオープニングテーマ(ULTRA-PRISM with イカ娘「侵略ノススメ☆」)を作った方であれば間違いないだろうと思いまして(笑)。

多層的な作り=コンテンツの深み

ーー「温泉むすめ総選挙」の上位入賞キャラクターによるソロ曲などを収録した『温泉むすめコンプリートアルバム Vol.3 〈SOLO SIDE〉』には、先ほどお話にあった有馬楓花のソロ曲「あ・り・ま・す・か?」を収録しています。彼女の「趣味:UMAのハンティング」というプロフィールを反映した、電波ソング風味の可憐なナンバーですね。

橋本:有馬楓花は“天然”のひと言では表現できない愛されキャラクターなので、不思議系電波ソングを作ろうということで、何度でも聴きたくなるスルメ曲になりました。畑さんもすごくこだわってくださって、歌詞もとてもユニークに仕上がっています。


有馬楓花

ーーこれは単純な疑問なのですが、なぜ有馬楓花はUMA好きなのですか? 有馬温泉にUMAにまつわるエピソードはないと思うのですが……。

橋本:それは有馬の漢字が「ゆうま」とも読めるところからきています(笑)。おそらく気づいている方はいると思いますが、公式としてはこれが初公表かもしれません。

ーーなるほど。それぞれの楽曲にキャラクターの個性や背景にあるストーリーが描かれていて、そういう意味でも今回のコンプリートアルバムは『温泉むすめ』への入門キットであるのと同時に、これをきっかけにその世界により深くハマっていける作品と言えそうです。

橋本:ちなみに今回のアルバムジャケットのイラストは全て、『温泉むすめ』の一コママンガや温泉指南マンガ「温泉に入ろう!」を担当していただいている、らぐほのえりか先生に描き下ろしていただきまして、これまで先生が描いていただいたことがすべて詰まったものになりました。それと『温泉むすめ』たちが通っている学校「温泉むすめ師範学校」はお台場にある設定なのですが、ジャケットに描かれている舞台もすべてお台場に実際にある場所なんです。「SOLO SIDE」はレインボーブリッジ、「UNIT SIDE」はお台場にある橋、「SPRiNGS SIDE」はお台場海浜公園ですね。これは『温泉むすめ』が現実にいるとしたら、こういう場所で日常を送っていることを表現したかったんです。

*【試聴動画】あ・り・ま・す・か?「有馬楓花(CV:桑原由気)」【温泉むすめ】*

ーー世界観をしっかりと作り込んでいるからこそ、キャラクター一人ひとりが魅力的に映るんでしょうね。

橋本:キャラクターは一人ひとりが魂を持っていないと、お客さんにはあまり伝わらないと思うんです。それとこれは自分もオタクだからわかるのですが、皆さん、考察や深読みが好きじゃないですか。そういった考察のヒントになるようなものをいろいろなところに散りばめたいんですね。それが薄くてレイヤーがあまりないと「温泉むすめってこんなものか」となってしまうので、見れば見るほど知れば知るほどいろんな解釈ができる、多層的な作りにしたいんです。それがコンテンツの深みだと自分は考えていまして。元々お客さまに笑顔と癒しを与えるプロジェクトと謳っているので、ニヤッとするような面白さにはこだわっていきたいです。

『温泉むすめ』が目指す“文化を繋ぐハブとしての存在”

ーー今後の大きな展開としては、12月22日にSPRiNGSの単独ライブ『SPRiNGS 3rd LIVE 〜湯夢色バトン〜』が東京・福生市民会館大ホールで予定されています。

橋本:今回は新衣装のお披露目や等身大フィギュアの展示も行う予定で、会場に足を運ばないと体験できない楽しみをたくさん用意しています。そして今回のライブでは実験要素として、3Dキャラクターによるハイブリッドライブも行います。例えば『あんさんぶるスターズ!』さんや初音ミクさんといったコンテンツでも3Dライブを展開されていますが、今回はキャラクターの3D映像の隣に声優を置いて二人でライブを行う、次元をミックスしたものになる予定です。コンテンツ業界では普通、2次元と3次元をしっかりと切り分けて世界観を保つことが大事と言われていますが、そんなものは壊してしまおうと思いまして(笑)。ただ、そうはいっても最低限の境目は引いています。また、今回のジャケットにも表れていることですが、我々は2次元を3次元に重ね合わせることも大事にしていて、完全なフィクションにしないようにすること、それが地域を応援するために必要なことだと思うんです。

 また、3Dのキャラクターを作る理由として、各キャラクターが地域の旅先案内人として観光案内を行うような環境を作りたいという目的もあります。もちろん声優本人が実際に現地に行くのは難しいですから、3Dのキャラクターが旅行案内をしてくれるようなデジタルサイネージや投射するためのスクリーンを用意できればと考えていまして、その実験として今回のライブで3Dにもチャレンジします。我々は演出のために3Dを投影するアクリル板から作っていますから、きっと楽しんでいただけると思います。

ーー前回のインタビューでも「楽曲を作ること自体が毎回実験」とお話されていましたが、『温泉むすめ』はそういったトライアルを重ねることで新しい種を育てていっているように感じます。

橋本:自分は今後コンテンツが日本の産業を引っ張っていくという確信があるので、我々がそのリーディングカンパニーとなるために、いろんなものを受け入れて、製作委員会方式のような古い考え方や仕組みを時代のニーズに合わせて変化させようと思っているんです。そもそもコンテンツビジネスでフリーミアム、いわゆるロイヤリティフリーなんて通常はあり得ないですが、我々はキャラクターをフリーで使っていただいて、全国展開をしつつ、アニメやゲームに依存しすぎない方策を立てています。これは前回のインタビューでもお話しましたが、ライブでも音楽だけでなく演劇を挿んだり、影絵や日本舞踊を取り入れたりといったミックスカルチャーを進めていかないと、いずれ飽きられてしまうと思うんです。

 実のところ声優コンテンツ自体がすでに飽きられ気味だと感じています。今はこれだけたくさんのコンテンツがありますし、そのなかでフェードアウトしていくプロジェクトも多いじゃないですか。そんな状況の中、我々はコンテンツの栄枯盛衰に合わせて声優さんが使い捨てられていくような状況は避けたいですし、コンテンツを未来永劫続けていくためには、新しい技術、新しい発想をどんどん取り込んで、コンテンツ自体が多様性と多面性を持って、拡張していくことが非常に重要だと思うんです。そういった柔軟性がないとコンテンツは尻すぼみしていきますし、常に危機感を持ちながら運営しているところはあります。

ーーでは『温泉むすめ』としてはこの先、どのような展開をお考えですか。

橋本:今後もいろいろな地域や企業との展開を予定していますが、まずは伝統的工芸品とのコラボを開始します。第一弾として箱根彩耶役の長江里加さんが作成した箱根の寄木細工を限定販売しまして、その後も陶器や漆器、日本人形の企画が進行しています。日本人形は髪の色が黄色のものを企画しているんですよ。今は節句の時に雛人形を飾る人が少なくなりましたが、「温泉むすめ」の日本人形なら興味を持っていただけるかもしれない。そうやって日本の伝統工芸や伝統文化と若い人の橋渡しをしたいんです。

 他にも今度『温泉むすめ』で落語部を作って、落語家さんと一緒に寄席をできればとも考えています。そうすることで若い方が落語に興味を持って、それをきっかけに本物の寄席に足を運んでいただければいいなと考えていまして。先ほどのバトンの話ではないですけど、『温泉むすめ』が次元やコンテンツ、文化を繋ぐハブとして存在することで、今後もいろんな方を巻き込んで、若い人や海外の方が日本の文化の良さや魅力を知るきっかけになればと思うんです。そこはインバウンドも視野に入れながらやっていきたいですね。

ーー様々な人にアプローチできる企画が盛りだくさんですね。

橋本:それによってより幅広い人に知ってもらえたらうれしいですし、我々の夢は紅白出場ですからね(笑)。それと詳細はまだ言えませんが、来年にはついにあのプロジェクトが動きますので、こちらもぜひ期待していただければと思います。

(取材・文=流星さとる)

欢迎在Weibo和Twitter关注我